危機対応能力育成プログラム

近年、専門性を重視した診療が実践されるなか、個々の医師の診療領域は一部の分野に特化されつつあります。しかしながら、日々の診療のなかでは、予期しない病態の悪化や状態の急変など専門領域の知識と技能のみでは対応することが困難な事態も生じます。このような状況においても、専門性にかかわらず医師として常に適切な対応を行うことが求められます。このため、医師にはspecialistとしての技能に加え、少なくとも日々の診療での危機に対応できる能力を備えることが不可欠です。危機対応能力を身につけることは医療事故の減少、患者のアウトカムの改善にも役立ちます。 医師育成に対するこのような考えのもと、救命救急センターでは、救急診療を経験させるのみでなく危機対応能力を育成することを目指したプログラムを設けています。 具体的には、下記のような要望にお応えするプログラムです。  

  • 将来は、内科あるいは外科等の専門領域に進むつもりだが、予期しない病態の悪化や状態の急変に対応できるよう、必要とされる危機対応能力を身につけたい
  • これまでspecialistとして経験を積んできたが、もう少しgeneralistとしての能力を身につけたい
  • 初期臨床研修では初期・二次救急しか経験する機会がなかったため、救命救急医療を研修したい

プログラムの内容

救命救急センターにおいて、さまざまな疾病や外傷患者の初期診療、手術、集中治療管理、病棟管理にたずさわり、救急医療のみでなく日々の診療で必要とされる危機対応に必要な知識、技能を修得します。 本プログラムは、院内他科からの短期ローテートにも対応しており、研修中は週に半日程度、元診療科の処置や検査、手術に参加することができます。

対象

    卒後3年目以上で、危機対応能力の習得、救命救急医療に興味のある医師

期間

    4か月~12カ月

待遇

卒業後の経験年数にもとづく当院の採用規定に準じます

  • 前期研究医:卒後3年目以上
  • 後期研究医:卒後6年目以上

修得目標

    1. 気道、呼吸、循環の状態を評価できる
    2. 予期しない病態の悪化、状態の急変に対応できる
    3. 救急患者の初期診療ができる
    4. 外傷患者の初期診療ができる
    5. 心肺蘇生ができる
    6. 確実な気道確保ができる
    7. 人工呼吸器を用いた呼吸管理ができる
    8. 超音波、連続心拍出量測定器等を用いた循環管理ができる
    9. グラム染色を用いた感染症治療ができる
    10. チームとして危機に対応できる

 

カリキュラム

SBO 
方略
A. 気道、呼吸、循環の状態を評価し管理できる
気管挿管患者の管理を行う。
気管切開患者の管理を行う。
酸素療法を実施する。
バイタルサインを指標にした輸液管理を行う。
昇圧薬・降圧薬を用いた循環管理を行う。 
主治医として救急、集中治療患者の診療に参加する。  
B. 予期しない病態の悪化、状態の急変に対応できる 
 救急、集中治療患者の診療に参加する。
 コードブルーに対応する
C. 救急患者の初期診療ができる
 EMEC(Emergency Medical Evaluation and Care)の講義を受ける。
 疾病救急患者に対し、チームリーダーとしてEMECを実践する。
D. 外傷患者の初期診療ができる
 JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)の講義を受ける。
 外傷患者に対し、チームリーダーとしてJATECを実践する。(胸部X線、骨盤X線、頸椎X線読影、CT読影、胸腔ドレーン挿入を含む)
E. 心肺蘇生ができる
 救急初療においてチームリーダーとしてACLSを実践する。
 適切な薬剤を用いた心肺蘇生を実施する。
F. 確実な気道確保ができる
 気道管理の講義を受ける。(Airway Emergency、Difficult Airwayを含む)
 経口気管挿管を実施する。
 気管切開術に参加する。
G. 人工呼吸器を用いた呼吸管理ができる
 院内で使用される人工呼吸器(Servoi、BiPAP)の機能、使用方法、人工呼吸設定を理解する。
 呼吸状態に応じた人工呼吸器の設定を行う。
 血液ガス検査所見を正確に理解し対応する。
H.  超音波、連続心拍出量測定器等を用いた循環管理ができる
超音波診断装置を用いた循環評価を行う。 
 Vigileo、Volume Viewを用いた循環管理を行う。(中心静脈ルート、動脈ライン挿入を含む)
I.グラム染色を用いた感染症治療ができる
 グラム染色の実習を受ける。
 検体のグラム染色を行い、感染患者の起炎菌を想定する。
J. チームとして危機に対応できる 
ブリーフィングとデブリーフィングを実践する。 
 SBARを用いたコミュニケーションを実践する。
 チームパフォーマンスカンファに参加する。
CPACセミナーを受講する。(希望者のみ) 

 

  午前 午後

9:00 までに患者の把握

9:00 朝のカンファレンス

受持ち患者の診察、処置、各種オーダーなど

チーム内ディスカッション(随時)

17:00 夕のカンファレンス

8:30 までに患者の把握

8:30 朝のカンファレンス

9:30 勉強会

10:00 受持ち患者の診察、処置、各種オーダーなど

12:30 医局会(隔週)

12:30 抄読会(隔週)

チーム内ディスカッション(随時)

17:00 夕のカンファレンス

9:00 までに患者の把握

9:00 朝のカンファレンス

受持ち患者の診察、処置、各種オーダーなど

チーム内ディスカッション(随時)

17:00 夕のカンファレンス

9:00 までに患者の把握

9:00 朝のカンファレンス

受持ち患者の診察、処置、各種オーダーなど

チーム内ディスカッション(随時)

17:00 夕のカンファレンス

9:00 までに患者の把握

9:00 朝のカンファレンス

受持ち患者の診察、処置、各種オーダーなど

チーム内ディスカッション(随時)

17:00 夕のカンファレンス

 注1. 火曜日の朝の勉強会では、担当チームの症例に関して、治療ガイドラインや文献を用いて最近の動向や 週間カンファレンスでは、入院患者の症例検討を行う。関連各科医師や social worker が加わることがある。患者の問題点を明確にし、スタッフ全員で討議できる ようにデータ等を準備する。

注2. 救急搬送、緊急手術・処置などが優先されるため、予定が変更されることがある。 注3. チーム内ディスカッションでは、指導医、研修医とともに患者の病態、治療方針に ついて発表する。 注4. 週のうち、一定期間(8 時間程度)は元診療科の診療・検査等に従事できる。

 

各種プロバイダー資格の取得

危機対応に必要なJATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)、PALS(Pediatric Advanced Life Support)、DMAT(Disaster Medical Assistance Team)、CPAC(Crew Performance Awareness Course)、DAM(Difficult Airway Management)等のプロバイダー資格を取得(費用は病院負担)